1 背景
~事件の概要~
2011年3月の東北大震災、宮城県気仙沼市で被災したAさんが目黒区に避難しました。その後、避難期間は終了。その際、事情があり引っ越しできなかったAさんに対し、目黒区は一方的に退去を要請。後に不法占拠と約800万円の家賃未払いで訴えました。そして驚くことに、この裁判を提訴の際、目黒区議会は全会一致で賛成しました。
私が目黒区政に疑問を持った、政治活動の原点となっている事件です。議会の区政へのチェックは機能しているのでしょうか。議会や議員の「常識」とはいったい何なのでしょうか。
令和5年第2回定例会 ー 06月30日 本会議
◆請願5第2号 目黒区が原告となっている裁判を取下げ、被告に謝罪することを求める請願
2 賛成討論の要約
私は目黒区が原告となっている裁判を取下げ、被告に謝罪することを求める請願について、賛成の討論をします。無会派 れいわ新選組、こいでまありです。
今回、憲法上の権利である請願が、受理され委員会付託された事に感謝します。本区議会の民主性が示されました。
これまで本件に関する数々の陳情は係争中を理由に、陳情が上がっていることすら区のホームページに掲載されてきませんでした。
5点お伝えします。
①謝罪について
請願は訴訟の取り下げと被告への謝罪となっていますが、謝罪については、本区としての謝罪を求めるものです。
本請願の趣旨は、被災者Aさんを被告の立場から解放することです。とにかくAさんを一日も早く裁判から解放して差し上げることが重要だと考えます。
委員会では、「取り下げると真相がわからなくなる」とのご意見がありましたが、裁判の中では、本区は区職員の証人尋問に強く反対しました。これは本区側が「真相」を解明されることをおそれたのではないかと思います。
「真相」を求めたいなら、例えば、弁護士等を交えた第三者委員会等をつくって調査する方法があります。
②三権分立について
委員会では、裁判の取り下げを求めることは三権分立に反するとの意見がありました。
三権分立というのは、権力が集中しないように、立法、行政、司法に権力を分散させ、相互に権力の行使を抑制させ、国民の権利・自由を担保するというものです。
裁判を起こした方が途中で被告の同意を得て取り下げることはよくあることです。「裁判を取下げることで司法権を侵害する」という趣旨なら誤解です。また、本区は単独では提訴はできず、議会の承認が必要です。つまり、議会がストップできるのです。そして、議会にも責任があります。
③訴訟継続が無意味であること
Aさんに対する訴訟は、当初は明け渡しと不当利得金の支払請求でしたが、途中でAさんは退去、そこで本区は退去請求は取下げましたが、800万円以上の金銭支払請求はそのまま維持し訴訟が進行中です。
Aさんは月額6万円程度の年金暮らしです。仮に本区が勝訴したとしても、回収可能性は低いです。退去の目的は達したのです。区民の税金を使ってこのまま訴訟を続け、一個人を破産させることに意味があるでしょうか。
裁判の傍聴に行くと本区の職員が多く参加しています。彼らの人件費は区民の税金です。
しかも、Aさんは友好都市である目黒区から誘われ、はじめから区民住宅に入居しましたが、月額19万円であることは知らされていませんでした。区民住宅は、本来中堅所得層の子どもを育成する世帯を対象とした住宅です。なぜ区民住宅に入居させ、低額な区営住宅に入居させることを選択しなかったのか疑問です。
人気がなく空室となっていた区民住宅、90年代の政策の失敗、都道府県知事の指定、災害救助法第4条第1項第1号、内閣府令、そして議会を巧妙に活用した本区の財テク/補助金ビジネスの可能性を指摘されても仕方がない状況ではなかったか。
一方で、Aさんの夫が亡くなった事から生命保険金が入ったとまことしやかな情報を受けたことがありますが、家を流され、目黒区を頼って来て、しかも、夫を亡くしたAさんが、仮に生命保険金を受け取ったとして、そのようなお金まで奪おうということでしょうか。
④調停申立について
法的手続としては、訴訟の他に「民事調停の申立て」制度があります。民事調停というのは、裁判所を利用した話し合いの制度です。
中立的な立場の調停委員が双方の主張・事情を交互に聞き、互いに譲歩できるところは譲歩し、円満な解決を目指します。調停が成立すれば、調停調書は判決と同じ強制力を持ちます。
明け渡しを通告された際にご家族が重篤な病気であった、Aさんの様な特殊な事例でも、なぜ民事調停制度を利用せず、いきなり訴訟を起こしたのか。民事調停なら、第三者である調停委員を介して、円満な解決ができた可能性はあったと思います。
⑤国・地方自治体の住宅政策
国は、2006年(平成18年)に住生活基本法を制定しました。
2007年(平成19年)には、住生活基本法の理念にのっとり、住宅セーフティネット法が制定されました。
第2条では「住宅確保要配慮者」の定義がなされ、これには一定期間内の被災者や高齢者が含まれます。第6条では地方自治体も基本方針に基づき賃貸住宅促進計画を作成できるとされています。
2017年(平成29年)には、住宅セーフティネット法第4条1項に基づき国土交通省の告示があり、住宅確保要配慮者に対する施策として、重層的かつ柔軟な住宅セーフティネットの整備・構築にあたっては地方公共団体が主体的に取り組んでいく必要があること等が掲げられています。
2012年(平成24年)に本区は第5次マスタープランを策定、2016年(平成28年)には改定のための調査を行い、「住宅マスタープランを取り巻く現況」という報告書まで作成しています。目黒区は自ら掲げた施策を履行しなかったとしか考えられません。
そして、2017年(平成29年)3月、東京オリンピック2020を3年後に控え、政府、当時の安倍政権は東北震災の完全終了を広く対外的に示すため、みなし仮設住宅の各都道府県の支援を1年後に終えると告げました。宮城県はそれに従った。しかし、そんな時こそ生活実態のある本区がAさんに寄り添った支援をするべきでなかったのか。
唯一の家財道具である自家用車を手放したくないという、Aさんの希望を聞き入れることなく、生活保護を一方的に本区はすすめたという話です。
Aさんは、いくつかの制度のはざまに、こぼれおちてしまった。住まいは権利、基本的人権です。住宅セーフティネット法は、努力目標にすぎないという本区の言い分は残念でなりません。
今、議員の三分の一が入れ替わっています。今一度ご判断を頂きたい。
この裁判は取り下げるべきです。以上で私の賛成討論を終わります。
◆こちらの賛成討論は、れいわ新選組のボランティア上出勝弁護士の原案に、被災者を救う会の方々から頂いた情報と自分の調査事項を追加して作成しました。
3 事件に関する詳細記事:
4 ~これまでの陳情の却下~
今回、裁判の取り下げを区民の方に請願として提出してもらい紹介議員となりました。なぜ請願にしたのかには理由があります。実は本件については、複数の陳情が市民団体から出されてきましたが、係争中により委員会付託はされませんでした。おまけに、本件に関しては陳情が出ていることすら、区のホームページに掲載されなかったのです! また、請願は目黒区議会では25年間で1件しか提出されていませんでした。議員間の不文律の取り決めがあり、請願は提出しないことになっているそうです。目黒区民の請願権を取り戻そう。そう考えて、請願を提出しました。
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